テーマ③「労働組合による労働者供給事業と日本の労働運動」、報告者:伊藤彰信氏(元全港湾委員長・前労供労組協議長)

 報告は刊行を予定している労供事業をめぐる労働運動の振り返りと課題の考察であり、その概要は次の通り。

 労働組合が行う労働者供給事業(以下「労組労供」)は、労働者供給事業が職業安定法第44条で禁止されているにもかかわらず、唯一の例外として同法第45条で認められたものである。戦後の民主化政策の中でも労働組合の育成は重要な政策であったに違いない。労組労供は、産業別労働組合による日雇労働者の就労確保を基本として制度設計されている。労働組合は、労働力の売買の場である労働市場の支配力を高めなければ、賃金・労働条件を向上することはできない。しかし、日本の労働運動は企業別労働組合が主流であり、その活動は企業と雇用関係がある正規雇用労働者、いわゆる「内部労働市場」を対象としてきた。

 新型コロナウイルス感染症の流行によって、事業者の休業や就労減少によって生活困窮に陥る非正規労働者の存在が明らかになった。その問題は、労働問題であり、雇用保険制度の問題である。現在では2000万人をこえる非正規雇用労働者が存在し、かつて一時的・臨時的労働者といわれていた労働者が「常時労働者」1として恒常的に働く「中間労働市場」が形成された。非正規雇用労働者の中には「常時労働者」とは別に、雇用保険が適用されない日雇労働者やアルバイトといわれる一時的・臨時的労働者が存在する。さらには雇用労働者とは認められていない「雇用類似の働き方」をするフリーターなどの労働者が存在している。これら「外部労働市場」は拡大傾向にある。

 報告者は、全日本港湾労働組合において日雇労働運動、産業別労働運動を経験し、また労働者供給事業関連労働組合協議会において労働者供給事業で働く労働者のために活動してきた。執筆を予定しているのは、労組労供が、政府の雇用政策の変遷の中でどのように取り組まれてきたのか、日本の労働運動の中でどのような位置と役割を果たしてきたのか、労働市場の変遷について雇用保険を軸に俯瞰しながら、報告者が労働運動の中で感じ取ってきたことについてである。