労組労供をめぐっては,いくつかの裁判例がある。タイプ別に整理すると,(1)労組労供を行っている組合(以下,労供労組という)から除名された労働者が,組合に対し当該除名処分の無効と除名されなかったならば得られたであろう賃金額相当の支払請求を求めたもの(例えば,新産別運転者労組東京地方本部事件・東京地裁平7.11.30判決・労働判例686号30頁,関西職別労供労働組合事件・大阪地裁平10.8.17決定・労働判例745号9頁および13頁,関西職別労働組合[除籍・除名]事件・大阪地裁平12.5.31判決・労働判例811号75頁等),(2)労供労組と供給先との供給関係がなんらかの理由により途絶えたことに関連して,被供給労働者が,供給先の就労停止は解雇にあたると主張して供給先に解雇無効確認や解雇予告手当の支払を求めたもの(鶴菱運輸事件・横浜地裁昭54.12.21判決・労働判例333号30頁,渡辺倉庫運送事件・東京地裁昭61.3.25判決・労働判例471号6頁,泰進交通事件・東京地裁平19.11.16判決・労働判例952号24頁等),(3)複数の労供労組が存在している状況の下で,供給先が,一方の組合との関係では供給を停止しながら,他方の組合との関係では供給を継続していることにつき,労働委員会が当該供給依頼停止は支配介入に該当するとして是正を求める命令を発したことに対して,供給先会社が取消訴訟を提起したもの(近畿生コン事件・東京地裁平21.9.4判決・別冊中央労働時報1386号59頁)である。
(1)タイプの事件では,除名ないし除籍の無効が認められたり認められなかったりという違いはあるが,当該処分の無効が認められても,供給される労働者には必ずしも一定の収入が約束されているわけではない等の理由で,組合への支払請求は斥けられている。
(2)タイプの事件では,供給先と供給労働者との関係につき,裁判所は,「供給のあるかぎりにおいて成立する使用関係」(鶴菱運輸事件),「この使用関係が長期にわたって反復継続されたとしても,そこに通常の雇用関係の成立を認め」ることはできない(渡辺倉庫運送事件),この使用関係は「供給契約の存続を前提としつつ,本件労働協約に定めのない事項については労働基準法や[供給先]の就業規則等が適用され,雇用保険法の適用等の面では[供給先]が事業主となってその雇用責任を負う特殊な労働契約関係である」(泰進交通事件)として,いずれも労働者側の請求を斥けている。
(3)タイプの事件は,いまのところ,裁判所レベルでは1件であるが,労働委員会レベルでは同種の争いが過去にも見られる(結運輸事件・京都地労委平10.4.15命令・労働経済判例速報1673号19頁,同事件・中労委平12.8.2命令・不当労働行為事件命令集117号678頁)-ただし,この事件では地労委が供給先による不当労働行為であると認めたのに対し,中労委は当該地労委命令を全部取り消している。
武井 寛