【報告要旨】 2019年11月16日研究会
建設分野における労働実態とその課題~人材不足下の労務管理の課題~
岩手県立大学 柴田徹平

 建設就業者数は1997年から20年間で3割弱も減少し、若年入職者の減少と職人の高齢化が進んでいる。市場規模は90年代後半から縮小を続けており、オリンピック特需等の影響で一時持ち直しの動きを見せてはいるが、今後はオリンピック後の投資の冷え込みが予想されており、公共施設などの潜在的需要への対応が課題となっている。
 人材不足が生じた背景には低い労働条件が挙げられる。若年技能労働者が定着しない理由は「作業がきつい」(42.7%)、「労働に対して賃金が低い」(24.2%)、「休みがとりづらい」(23.5%)であり、労働条件でみても、全産業に比べ、年間労働時間で約300時間、出勤日数で約1か月分も長い。年収でみても、製造業よりも約60万円低く、個人請負のうち生活保護基準以下の収入の者の割合は4割強に上る。
 こうした現状に対して様々な解決に向けた取り組みが始まりつつある。具体的な取り組みとしては、①週休2日制導入に向けて、国・経済界・労働組合が取り組み始めている。②社会保険加入率の引き上げを進めている。働く側にとっては重要な取り組みだが、北海道の事例など社会保険料を支払えない零細業者の現場からの排除も進めている。
 ③報酬引き上げに向けた様々な動きが挙げられる。「設計労務単価」の引き上げ、建設産業の財界である日本建設業団体連合会の年収600万円提言とそれを自右舷させる労働組合の取り組みによって、賃金上昇を徐々にもたらしている。一方で賃金上昇率は大きくない。その要因は重層下請構造の下で元請や上位の下請企業がマージンを取り、末端の建設就業者の報酬増加を困難にしているからである。こうした中で、2010年代から労働組合によって、設計労務単価の上昇を報酬増加につなげる取り組みとして、労働者供給事業の取り組みが進められている。
 ④建設キャリアアップシステムの運用開始(2019年4月~)である。この制度は「技能者ひとり一人の就業実績や資格を登録し、技能の公正な評価、工事の品質向上、現場の効率化につながるシステム」であり、情報の蓄積による技能者の報酬アップが期待されている。以上のように、建設産業では労働条件改善のために様々な取り組みがなされているが、ひとたび、市場が後退局面に突入した時、これらの成果の果実が失われる可能性も否定できない。それは建設産業の構造的問題が今日の人材不足の根本的な要因にあるからだ。
 字数の制約があるので、結論だけ述べると構造的な問題とは、①重層下請化の進展、②元請企業が技能労働者を雇用しないという建設産業の構造、③労働組合による賃金相場形成力の弱体化である。それ故に今後の課題は、上記の三つの構造的問題の弊害の除去に有効に機能していくよう取り組みを、現在の取り組みと合わせてどれだけ行っていけるのかが重要となる。


 建設就業者数は1997年から20年間で3割弱も減少し、若年入職者の減少と職人の高齢化が進んでいる。市場規模は90年代後半から縮小を続けており、オリンピック特需等の影響で一時持ち直しの動きを見せてはいるが、今後はオリンピック後の投資の冷え込みが予想されており、公共施設などの潜在的需要への対応が課題となっている。
 人材不足が生じた背景には低い労働条件が挙げられる。若年技能労働者が定着しない理由は「作業がきつい」(42.7%)、「労働に対して賃金が低い」(24.2%)、「休みがとりづらい」(23.5%)であり、労働条件でみても、全産業に比べ、年間労働時間で約300時間、出勤日数で約1か月分も長い。年収でみても、製造業よりも約60万円低く、個人請負のうち生活保護基準以下の収入の者の割合は4割強に上る。
 こうした現状に対して様々な解決に向けた取り組みが始まりつつある。具体的な取り組みとしては、①週休2日制導入に向けて、国・経済界・労働組合が取り組み始めている。②社会保険加入率の引き上げを進めている。働く側にとっては重要な取り組みだが、北海道の事例など社会保険料を支払えない零細業者の現場からの排除も進めている。
 ③報酬引き上げに向けた様々な動きが挙げられる。「設計労務単価」の引き上げ、建設産業の財界である日本建設業団体連合会の年収600万円提言とそれを自右舷させる労働組合の取り組みによって、賃金上昇を徐々にもたらしている。一方で賃金上昇率は大きくない。その要因は重層下請構造の下で元請や上位の下請企業がマージンを取り、末端の建設就業者の報酬増加を困難にしているからである。こうした中で、2010年代から労働組合によって、設計労務単価の上昇を報酬増加につなげる取り組みとして、労働者供給事業の取り組みが進められている。
 ④建設キャリアアップシステムの運用開始(2019年4月~)である。この制度は「技能者ひとり一人の就業実績や資格を登録し、技能の公正な評価、工事の品質向上、現場の効率化につながるシステム」であり、情報の蓄積による技能者の報酬アップが期待されている。以上のように、建設産業では労働条件改善のために様々な取り組みがなされているが、ひとたび、市場が後退局面に突入した時、これらの成果の果実が失われる可能性も否定できない。それは建設産業の構造的問題が今日の人材不足の根本的な要因にあるからだ。
 字数の制約があるので、結論だけ述べると構造的な問題とは、①重層下請化の進展、②元請企業が技能労働者を雇用しないという建設産業の構造、③労働組合による賃金相場形成力の弱体化である。それ故に今後の課題は、上記の三つの構造的問題の弊害の除去に有効に機能していくよう取り組みを、現在の取り組みと合わせてどれだけ行っていけるのかが重要となる。