國學院大學経済学部 労供研究会

平成27年度の國學院大學特別推進研究

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 平成27年度の國學院大學特別推進研究「労働組合による労働者供給事業の実態とその役割・意義に関する調査研究」(國特推助73号、研究代表者は國學院大學経済学部教授、橋元秀一)の調査研究概要

1.平成26年度までの成果

 初めて実施された本格的研究は、國學院大學21世紀研究教育計画委員会の研究費助成を得て平成21年度~23年度に実施された國學院大學経済学部調査研究プロジェクト「労働者供給事業に関する調査研究」である。この研究では、労組労供の事例調査を行い、その実態とこの事業が抱える問題点を解明している。このプロジェクトの研究成果は、 平成24年2月23日の國學院大學経済学部・國學院大學労供研究会共催シンポジウム「労働組合による労働者供給事業の可能性-非正規労働問題の解決へ向けて-」で発表され、『労働組合による労働者供給事業に関する調査研究報告書』に取りまとめられた。この調査研究によって、労組労供の代表的5事例の概要が明らかとなり、労働者派遣事業に比べ就労の安定と賃金・労働条件の優位性が明らかにされた。こうして労組労供の本格的研究が始まり、また既存の労働法規定において労組労供のシステムを生かし切れない法的不明確さ(労働組合の事業主性や「雇用」と「使用」概念の異同など)が指摘され、労組労供をめぐる法的政策的検討の必要性も明らかとされた。本研究代表者は、「非正規雇用問題と企業別組合の役割およびその展望」(社会政策学会誌『社会政策』第2巻第1号、ミネルヴァ書房、平成22年)において、基幹的労働力として内部化された非正規労働者は企業別労働組合による賃金・労働条件の改善を、それ以外の外部労働市場で需給調整が行われている非正規労働者は地域別組合組織ないし産別組合組織による労供事業を通じての雇用改善と就労の安定化が必要であることを指摘した。また、「労働組合による労働者供給事業の諸類型と可能性」(国学院経済学、第60巻第3・4 合併号、平成24年)で、労組労供の事例を分析して労働市場における競争条件の視点から3類型を明らかにし、労働者派遣事業に比べ賃金・労働条件が優位であることを示しつつ、その成立条件と普及の可能性を解明した。平成27年度の研究は、これらの調査研究をさらに発展させ、労組労供に関する事例研究の精度を高めるとともに、非正規労働者の雇用改善の有力な方策として普及するために必要な課題や対策を明らかにしようとするものである。

2.平成27年度の調査研究の概要

(1)平成27年度の研究目的
 年度当初に計画されたことは、次の通りであった。
 労組労供は活用実績が少ないとは言え、派遣事業よりも高い賃金・労働条件や安定した就労を実現している。本研究は、非正規労働者の雇用改善に資する方策として、労組労供の実態を詳細に解明し、労働者の就業における役割を分析し、労組労供が雇用改善にとってもつ意義を実証的に明らかにするものである。
 これまで労組労供の5つの事例を調査研究してきた。地方港湾での運送事業における全国港湾労働組合の労供、同労組介護家政職支部の訪問介護事業所、サービス連合が株主となり実施している添乗員派遣会社のフォーラム・ジャパン、新産別運転者労働組合東京地方本部の運転手や清掃事業の労供、コンピュータユニオンの事例である。これらの事例研究を深化させ、労組労供の実態や雇用改善の成果を具体的に解明する。そのために、5年前の調査時点以降の推移を含め実態を詳細に分析する。また、この中で、これまでの調査では実態把握が不十分であったと思われる請負事業の受注実態についても調査し、労働者の就業全体にとって労組労供が果たしている役割の実像を明らかにする。
 また、これらの5事例とは異なるタイプと思われる全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部および音楽家ユニオンを新たな事例として調査研究する。前者は業界経営者団体と協力した取り組みを進め、後者は請負就業が多く、その中で実態として労働組合が役割を果たしている。これらの事例についてはこれまで全く実態が明らかにされておらず、その役割や取り組みの意義も解明されていない。この2事例を加えることで、労組労供の多様な実態と役割が十分に明らかとなろう。
 以上は労働市場の供給側である労働者・労働組合の就業実態を中心とした調査研究であるが、これによって非正規労働者の雇用改善に資する労組労供の意義を解明することができる。さらに、労働者にとって労働者派遣事業よりも有用であることが示される。また、労供の存続条件、受注活動を含む運営実態、供給組合員の確保策、社会保険を含む処遇上の課題など、労組労供が抱えている弱点や労働政策上の課題も明らかとなる。

(2)研究の具体的課題
 上のような研究目的をふまえ、具体的課題として、供給側である労働組合のインタビュー調査を通じて、労組労供の実態を詳細に明らかにし、労組労供の役割・意義を解明することをめざした。時間や予算の制約があったため、上述の研究目的で示した調査対象は、既存5事例のうちの4事例、追加2事例のうちの1事例の合計5事例の研究を課題に絞り実施した。

①これまで調査してきた全港湾労働組合新潟支部、同介護家政職支部、新運転東京地本、コンピュータユニオンの4事例についてさらに詳細な調査研究を行った。この中では、労供の存続条件、受注活動を含む運営実態、供給組合員の確保策、社会保険を含む処遇上の課題、労供拡大上の問題点、さらには請負事業での組合機能などを重点としたインタビュー調査を実施する。これは、これまでの研究成果である『労働組合による労働者供給事業に関する調査研究報告書』(國學院大學労供研究会、平成24年2月)を拡充するものである。

②既存5事例とは異なるタイプであると考えられる全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部の事例を新たに収集するため、インタビューによる実態調査を行った。

 これらの本年の研究で、労働力の供給側から見た労組労供の請負を含む詳細な実態分析および労働市場での役割・機能の解明に焦点をあて、調査研究を進めた。既存4事例の追加調査については、これまで明らかとなっている各事例の特徴や残されている課題を検討し、追加調査事項を取りまとめた。その上で、インタビュー調査を実施した。実施日は、次の通りである。

平成28年2月12日 新運転労組東京地本
平成28年2月16日 全港湾労組介護家政職支部
平成28年2月18日 全港湾労組新潟支部
平成28年2月22日 コンピュータ・ユニオン

 追加事例の対象とした全日本建設運輸連帯労働組合関西生コン支部のインタビュー調査実施日は、平成28年2月24日であった。

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