「労働組合による労働者供給事業(労組労供)の実効性に関する調査研究」(國特推助103号、研究代表者は國學院大學経済学部教授、本田一成)の調査研究概要
(1)平成30年度の調査研究の目的と課題
平成30年度の調査研究は、これまでの事例調査を踏まえ、労組労供の代表事例となる労組に対する補足調査を実施し、事例研究の完成度をさらに高めることを目指した。また建設産業における労組労供に関する調査を展開した。具体的には、全日建遮輸関西生コン支部、全建総連、埼玉土建、埼玉土建技術研修センター、千葉土建に対する補足調査を実施した。
調査研究課題として、当初次の①~③の課題があげられたが、時間的資金的制約もあり、②への取り組みは今後の課題として残されることとなった。また ①のうち、全日建運輸関西生コン支部および埼玉土建技術研修センターの事例については、実査は行ったが、諸事情のため本報告杏での報告は見送り、以後実施する調査研究と統合して進めることとした。
①これまで調査研究してきた労組労供の代表事例について、まだインタビュー調査による情報収集で不十分な面を残していたり、刻一刻と情勢が変化しているので補足調査を実施する。労組労供の存続条件、受注活動を含む運営実態、供給組合員の確保策、社会保険を含む待遇など、労組労供の供給システムの問題点も含め全体としての解明が求められる。
②事例研究を完成させるためには、労働供給側の調査だけではなく、労働需要側である個人や企業に対する調査が必要である。労組労供が利用されている理由、そのメリットと問題点などの実証的研究は存在しておらず、明らかにされるべき重要な調査研究である。
③労組労供の労働法的な位慨づけの現況と課題を解明することである。労組労供は「職業安定法」の制定当初から合法化され今日に至っているところであるが、労組労供を主体として明確に位阻付けた法制化がなされていないため、様々な解釈や論点をはらんだままとなっている。これらを整理し、法整備の見 通しを含めた法的研究が必要になるであろう。
平成 30年11月に開催された労供研究会において、 30年度の調査研究課題の検討が行われ、 具体的研究計画が策定された。 確認された点は次の通りである。事例研究を中心とした労組労供に関する情報発信と学術書の刊行を目指す。労組労供の事業主性に関して社会労働保険適用事業者となったことを受けて、それ以降の情勢と労組労供の対応について検討を継続する。 労働法研究の立場から労組労供の検討に入る。
このうち、労組労供を実施する労組が社会労働保険適用事業者となりうる点については、平成28年度の研究で着手された。この問題は平成27年に「労働 者派遣法」が改正され、派遣先の同一事業所に対して派遣できる期間(派遣可能期間)が原則3年を限度とすることになったため、供給・派遣の形式による労組労供の運営の一部に影響が発生しかねないというものであった。すなわち、供給・派遣で対応してきた労供労働者の社会保険適用が3年をこえる場合は対応できなくなる可能性がある。平成30年度の時点でこの問題の現状を把握しておく必要がある。そこで、労供労組協の立場から、この間の経緯と現状を報告してもらうことにした。また、労組労供の典型事例、および、労組労供の法的検討についても、調査に基づく知見や労働法研究を踏まえて労供研究会で報告してもらうことにした。
(2)インタビュー調査および労供研究会の経緯
上述の方針に沿って実施した調査研究は、適宜労供研究会での報告を依頼する形で共有された。平成30年度中に開催された労供研究会は、以下の通りであり、関係者による報告が行われ、質疑応答を重ねた。また、それらの研究会活動を踏まえ、報告者および研究メンバーの問題関心や情報収集を含めてとりまとめた。
2018年11月2日・・・横山南人報告と研究内容の検討
2019年1月30日・・・武井寛報告と研究内容の検討
2019年2月18日・・・本田一成報告と研究内容の検討