【報告要旨】 2019年12月10日研究会
イギリスの労働市場におけるグローバリゼーションと社会運動
國學院大學 大西祥惠
國學院大學における国外派遣研究の制度を活用して、イギリス、ロンドンにあるロンドン大学(University of London)東洋アフリカ研究学院(School of Oriental and African Studies)の日本研究センター(Japan Research Centre)の滞在研究員(visiting scholar)として1年間滞在した。研究テーマは、マイノリティや社会的に不利な立場にある人たちの労働、政策状況である。ここでは主にEU離脱後の移民政策に関する話に絞った形で論じたい。
2019年3月29日はもともと離脱の予定日で、当日はもう離脱しないと決まっていたが、離脱の賛成派と反対派の両方の団体がイギリス政府の建物の前で、デモンストレーションをやっていた。実際に離脱が実現すると、久々に国境管理が復活するので、税関とか手続きする部門が慣れてなくて、貿易とか流通が滞ると現地ではしきりにいわれていた。例えば、医薬品などの流通が滞る恐れがあるとの報道もあった。
EU離脱によってイギリス政府が狙っていることがいくつかあると思うが、その一つは移民政策の変更である。EUに加盟していたために、人やモノの国境を越えた自由な移動を保障しなければならなかったが、イギリス政府としては、それを何とかコントロールしたかったというのがあるかと思う。そういう意味では、今後のコントロールの方向性がどうなるのかが注目される。
イギリス政府はいくつかEU離脱後の移民政策の案を出しているが、2018年12月のものによると、これまであった移動の自由を廃止するとはっきりと言っている。今まではEUとnon-EUで扱いが違い、2018年9月段階、私がイギリスに入国するときには、入国管理においてEUの人はこちら、non-EUの人はこちらと分けられていた。それに対して、今後はEU域内とEU域外に共通のルールを適応するということである。
こういうことを、企業とかシンクタンクはどう分析しているかというと、EU法に基づく労働者は必要であり、移動の自由の廃止には反対する意見もみられる。しかし、政府としては基本的には自由な移動を認めないという形になっている。
実際イギリスの労働市場では、2016年の国民投票の結果が出た後、EUから入ってくる労働者の人数が急速に減少している。それまではEU域内から入る労働者は増えていたが、とりわけ医師とか看護師について減りはじめている。イギリスにおいても、看護師不足が深刻なようで、困っているにもかかわらず、2017年に奨学金制度を廃止しており、それによる希望者の減少も起こっているということである。その対応策として2018年にEUの域外の人たちの受け入れをしやすいような形にしていて、専門技術者の数量制限から看護師を除外した。今のところ、EU域外からの看護師の登録は増加している。