【報告趣旨】2021年1月26日研究会
コロナ災害から日本の雇用政策を考える
伊藤彰信(労供労組協顧問)
コロナ災害によって生活困窮に陥っている労働者は、飲食業、小売業、旅行・宿泊業の女性非正規労働者に多い。非正規労働者は、元々の賃金が低いので休業手当が支給されても生活できない実態がある。パート、アルバイトで働く労働者の解雇・雇止めや休業支援金の不支給が問題となっている。リーマンショック時の「年越し派遣村」では、解雇され寮からも追い出された製造業の派遣労働者が大きな社会問題だった。当時、派遣労働者は1年未満の雇用期間で雇用されていたため雇用保険の適用労働者ではなかったし、日雇雇用保険も適用されなかった。
今回のコロナショックで政府は、雇用保険の受給資格を持たない人たちにも特別に大盤振る舞いした。雇用調整助成金は、オイルショック後の1975年に施行された雇用保険法の目玉制度である。余剰人員を解雇することなく抱え込んだ企業に対して休業手当や賃金の一部を助成する制度である。雇用調整助成金は企業が申請するものであるが、休業支援金は労働者が申請するものなので失業給付の一種といえる。いずれも雇用関係が存在することが前提である。この休業支援金の支払いを拒否する企業の言い分は、「シフトが組まれていないから」である。つまり、シフトで働く労働者は日雇労働者ということになり、シフトがない時は失業しているのである。
リーマンショック前は、雇用期間1年を境に常用労働者と臨時労働者の区分けがされていた。リーマンショック後、雇用期間が31日以上で上限が派遣の場合は3年未満、一般的には再雇用を含めて5年未満の約2000万人を超える「常時労働者」といわれる非正規労働者群が形成された。非正規労働者は言葉としてなくなったわけだが、雇用保険が適用される非正規労働者と適用されない非正規労働者の存在が明らかになった。
産業雇用調整助成金制度が創設された。在籍出向は「業として行う」場合は職安法44条違反であるが、労働者を離職させずに関係企業で雇用機会を確保することは「社会通念上」容認されてきた。違法である「二重の雇用関係」が表舞台に登場し、人材派遣ビジネスが介在して制度運用されようとしている。コロナショックはAI・デジタル化など産業構造の転換を伴うものであり、景気変動対応型の雇用調整助成金制度では対応できないからであろう。産業雇用調整助成金制度による企業グループ内の移動は、正社員には有効かもしれないが、非正規労働者の雇用を守るものとは思えない。
今回、日雇雇用保険被保険者には何も支援措置がなかった。政府は日雇雇用保険制度の廃止を考えているのだろう。労働組合が行う労働者供給事業は、このような雇用政策の変化を想定して事業の将来を考えなければならない。